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Webマーケティングとセールスの連携|売上を最大化するSmarketing

Webマーケティングとセールスの連携|売上を最大化するSmarketing

多くの企業組織において、Webサイトからの問い合わせを増やす「Webマーケティング部門」と、その問い合わせを商談化し、契約に繋げる「営業(セールス)部門」は、本来、売上という共通の目標に向かって走る両輪であるはずです。しかし、現実には「マーケが集めてくるリード(見込み客)の質が低い」「営業がリードをきちんとフォローしてくれない」といった部門間の対立や断絶が、多くの企業で常態化しています。この根深い溝は、ビジネスの成長を妨げる最大のボトルネックの一つです。本稿では、この課題を解決し、マーケティングとセールスが一体となって売上を最大化するための先進的なアプローチ「Smarketing(スマーケティング)」について、その概念から具体的な実践方法までを網羅的に解説します。部門間の壁を取り払い、顧客中心の滑らかな収益サイクルを創り出すための、組織変革の処方箋がここにあります。

1. Smarketing(スマーケティング)とは?

Smarketing(スマーケティング)とは、Sales(営業)とMarketing(マーケティング)という二つの単語を組み合わせた造語であり、これら二つの部門が、サイロ化(孤立化)した状態から脱却し、共通の目標に向かって、緊密に連携・統合された一つのチームとして機能するという、組織的なアプローチ、またはその状態を指します。

これは、単なる「仲良くしましょう」といった精神論ではありません。目標設定、KPI、顧客情報の共有、そして日々のオペレーションに至るまで、両部門のプロセスを戦略的に連携させ、見込み客(リード)の創出から、顧客化、そしてファン化に至るまでの全プロセスを、途切れることなく滑らかに繋ぎ合わせるための、具体的な方法論です。

なぜ今、Smarketingが求められるのか

Smarketingという概念が重要視されるようになった背景には、インターネットの普及による顧客の購買行動の根本的な変化があります。

かつて、顧客が製品やサービスに関する情報を得る手段は、企業の営業担当者からの説明や、広告といった、企業側がコントロールする情報が中心でした。しかし、現代の顧客(特にBtoBの購買担当者)は、営業担当者に接触するずっと前の段階で、自らWebサイトやSNS、比較サイトなどを駆使して、徹底的な情報収集と評価を済ませています。ある調査によれば、BtoBの購買担当者は、購買プロセスの半分以上を、営業担当者と話す前に独力で終えていると言われています。

この変化は、マーケティング部門と営業部門の役割に、大きな変革を迫ります。

  • マーケティング部門の役割の変化: かつては、広告宣伝による認知度向上や、展示会での名刺集めが主な役割でした。しかし、今ではWebサイトやブログ、SNSを通じて、顧客が自己解決するための有益な情報を提供し、オンライン上で見込み客を惹きつけ、育成する(リードナーチャリング)という、より営業に近い役割までを担うようになっています。
  • 営業部門の役割の変化: かつては、製品の機能説明から始まる「御用聞き」的な営業が主流でした。しかし、すでに情報を得ている現代の顧客に対しては、彼らが知らない専門的な知見や、彼らのビジネス課題を解決するための深い洞察を提供できなければ、価値を感じてもらえません。よりコンサルタティブなアプローチが求められるようになっています。

このように、マーケティングと営業の役割が互いに接近し、重なり合うようになった現代において、両者がバラバラに活動していては、この複雑化した購買プロセス全体を最適化することは不可能です。顧客がWebサイトでどのような情報に触れ、どのような関心を持っているのかを、マーケティング部門が営業部門に伝え、営業部門は、顧客との対話で得たリアルな声や、失注の理由をマーケティング部門にフィードバックする。この情報のキャッチボールを通じて、顧客一人ひとりに対して、一貫性のある、最適な体験を提供すること。それこそが、Smarketingが目指す姿なのです。

Smarketingがもたらす具体的なメリット

マーケティングと営業の連携が実現すると、企業には計り知れないメリットがもたらされます。

  • 売上の向上: HubSpot社の調査によれば、Smarketingを実践している企業は、そうでない企業に比べて、収益の成長率が大幅に高いというデータがあります。リードの質が向上し、商談化率、成約率が高まることで、売上に直接的なインパクトを与えます。
  • マーケティングROIの向上: 営業部門からのフィードバックに基づき、より質の高いリードを生み出すチャネルやコンテンツに、マーケティング予算を集中投下できるようになります。これにより、無駄なマーケティングコストが削減され、ROI(投資対効果)が向上します。
  • 営業効率の向上: マーケティング部門によって、既にある程度の興味関心が育成された状態でパスされるため、営業担当者は、全く脈絡のない相手に電話をかける(コールドコール)といった、非効率な活動から解放されます。より成約確度の高い見込み客に集中できるため、営業生産性が劇的に向上します。
  • 顧客体験の向上: 顧客から見れば、マーケティング部門と営業部門は、同じ「会社」の顔です。両部門が連携し、一貫したメッセージとスムーズな情報提供を行うことで、顧客はストレスのない、快適な購買体験を得ることができ、企業への信頼と満足度が高まります。

Smarketingは、もはや一部の先進的な企業だけのものではありません。顧客主導の時代を勝ち抜くための、全ての企業にとって必須の、次世代の成長戦略なのです。

2. マーケティング部門と営業部門の対立の原因

多くの企業で、マーケティング部門と営業部門は、まるで異なる国に住んでいるかのように、互いに相容れない存在として認識されています。本来は同じ目標に向かうべき両者が、なぜこれほどまでに対立し、深い溝が生まれてしまうのでしょうか。Smarketingを実践するためには、まず、この対立の根源にある構造的な問題を正しく理解することが不可欠です。

指標(KPI)と思考文化の断絶

両部門の対立を生む、最も根源的な原因は、それぞれが追いかけている指標(KPI)と、それによって形成される思考文化が、全く異なることにあります。

  • マーケティング部門のKPIと思考:
    • 主なKPI: WebサイトのPV数、リード(見込み客)獲得数、クリック単価(CPC)、コンバージョン率(CVR)など。
    • 思考文化: 彼らのミッションは、「できるだけ多くの人に、できるだけ効率的に」自社のメッセージを届け、見込み客の「リスト」を創出することです。そのため、思考は「量的」「長期的」「マクロ的」になりがちです。Webサイトという不特定多数を相手にするメディアを主戦場とするため、一人ひとりの顧客の顔は見えにくく、データやペルソナといった、抽象化された顧客像と向き合う時間が長くなります。
  • 営業部門のKPIと思考:
    • 主なKPI: 商談化数、受注数、受注率、売上金額、顧客単価など。
    • 思考文化: 彼らのミッションは、目の前にいる「一人ひとり」の顧客と向き合い、その個別の課題を解決し、最終的に「契約」という成果を上げることです。そのため、思考は「質的」「短期的」「ミクロ的」になりがちです。「今月の目標達成」という、短期的なゴールへのプレッシャーに常に晒されています。

このKPIと思考文化の違いが、互いへの不満を生み出す温床となります。

  • 営業からマーケティングへの不満:
    • 「マーケは、ただ数を集めればいいと思っている。送られてくるリードは、全く購買意欲のない、質の低いものばかりだ」
    • 「現場の顧客が本当に求めていることを理解せず、机上の空論で、格好いいだけのメッセージばかり発信している」
  • マーケティングから営業への不満:
    • 「せっかくコストをかけてリードを集めても、営業がすぐにフォローしてくれない。貴重な機会を無駄にしている」
    • 「なぜ失注したのか、顧客がどんな反応だったのかをフィードバックしてくれないので、施策の改善ができない」

このように、お互いが異なる言語を話し、異なる物差しで評価されている限り、両者の溝は埋まることがありません。

リードの「質」に関する定義の欠如

両部門の対立における最大の火種、それが「リードの質」を巡る認識のズレです。

マーケティング部門は、Webサイトから資料をダウンロードしただけであっても、それを「1件のリード」としてカウントします。しかし、営業部門からすれば、それはまだ情報収集段階の、全く「ホット」ではない顧客かもしれません。

「どのような状態の見込み客を、『質の高い、営業がフォローすべきリード』と見なすか」という、明確な定義と合意形成がなされていないことが、この問題の根幹にあります。この定義がないまま、マーケティング部門は「量」を、営業部門は「質」を、それぞれ一方的に追い求め続けるため、対立は深まる一方なのです。

情報共有の仕組みの不在

たとえ両部門の担当者同士が連携しようという意思を持っていたとしても、それを支える情報共有の「仕組み」がなければ、その試みは長続きしません。

  • サイロ化したデータ: マーケティング部門はMA(マーケティングオートメーション)ツールを、営業部門はSFA(営業支援システム)やExcelを、それぞれ個別に利用しており、データが連携されていない。
  • コミュニケーションの欠如: 両部門が顔を合わせる定例会議などがなく、日々のコミュニケーションが不足している。

このような状態では、マーケティング部門は、営業担当者がリードに対してどのようなアプローチをし、その結果どうなったのかを知ることができません。逆に、営業部門も、そのリードがWebサイトでどのようなコンテンツに興味を持っていたのかを知らないまま、手探りでアプローチするしかありません。この情報の断絶が、非効率と不信感を生み出しています。

これらの対立の原因は、個々の担当者の意識の問題というよりも、組織の構造や仕組みに根差した、根深い問題です。だからこそ、Smarketingの実践には、これらの構造的な問題を解決するための、経営層のリーダーシップと、明確なルールの設定が不可欠となるのです。

※関連記事:BtoCのWebマーケティング戦略|顧客の心を掴みファンにする方法

3. 共通の目標(KGI/KPI)を設定する

マーケティング部門と営業部門の間に横たわる深い溝を埋め、両者を同じ方向へと向かわせるための、最も重要で、そして最初のステップ。それが、売上に直結する「共通の目標」を設定し、共有することです。

それぞれが異なるKPI(重要業績評価指標)を追いかけている限り、両者の足並みが揃うことはありません。PV数やリード数といったマーケティング部門の目標と、受注数や売上高といった営業部門の目標を、一つの「収益サイクル(レベニューファネル)」として繋ぎ合わせ、その最終的なゴールであるKGI(重要目標達成指標)を、両部門共通の目標として掲げることが、Smarketingの土台を築きます。

収益ファネルに基づいた共通KPIの設計

収益ファネルとは、未知の潜在顧客が、最終的に契約に至るまでのプロセスを、漏斗(ファネル)のような形で可視化したものです。Smarketingでは、このファネルの各段階に、マーケティングと営業が共同で責任を持つKPIを設定します。

【収益ファネルの各段階と共通KPIの例】

  1. リード (Lead) / 見込み客
    • 段階: Webサイトへの訪問者が、資料ダウンロードや問い合わせを行い、連絡先情報を提供した状態。
    • 従来のKPI: マーケティング部門のみが「リード獲得数」を追う。
    • SmarketingでのKPI:
      • リード獲得数: マーケティング部門の主たる責任範囲。
      • MQL (Marketing Qualified Lead) 数: 次のステップで解説する、マーケティング部門が「質が高い」と判断したリードの数。
  2. MQL (Marketing Qualified Lead)
    • 段階: 獲得したリードの中から、マーケティング部門が、属性(企業規模、役職など)や行動(特定のページの閲覧、セミナーへの参加など)に基づいて、「有望な見込み客」であると判断した状態。
    • SmarketingでのKPI:
      • MQL数: マーケティング部門のKPI。
      • MQLからSQLへの転換率: MQLのうち、どれだけが営業部門によって「フォローすべき」と判断されたかを示す、両部門の連携を測る重要な指標。
  3. SQL (Sales Qualified Lead)
    • 段階: MQLの中から、営業部門(またはインサイドセールス)が実際にコンタクトを取り、「具体的な商談に進める可能性がある」と判断した状態。
    • SmarketingでのKPI:
      • SQL数: 営業部門のKPI。このSQL数を、両部門の共通目標の一つとすることが多い。
      • SQLから商談への転換率(商談化率): 営業部門の主たる責任範囲。
  4. 商談 (Opportunity)
    • 段階: 具体的な提案と見積もりを行い、受注を目指す状態。
    • SmarketingでのKPI:
      • 商談数: 営業部門のKPI。
      • 商談化率
      • 受注率 (成約率)
  5. 顧客 (Customer)
    • 段階: 受注・契約に至った状態。
    • SmarketingでのKGI:
      • 受注件数
      • 売上金額
      • 顧客単価 (ACV)
    • → これらを両部門共通の最終目標 (KGI)として設定する。

このように、ファネル全体を俯瞰し、各段階の「数」「転換率(歩留まり)」を、両部門が共通のダッシュボードで常に監視する。これにより、「リード数は多いのに、MQL数が少ないのはなぜか?」「MQLからSQLへの転換率が低いのは、リードの定義にズレがあるからではないか?」といった、プロセス全体のボトルネックを、両部門が協力して特定し、改善していくことが可能になります。

SLA(サービスレベル合意書)の締結

共通の目標とKPIを設定したら、次に、その目標を達成するために「マーケティングは、営業に対して何を約束するのか」「営業は、マーケティングに対して何を約束するのか」という、具体的な行動レベルの約束事を、SLA(Service Level Agreement:サービスレベル合意書)という形で文書化します。

  • マーケティング部門から営業部門へのSLA(例):
    • 「毎月、〇〇件のMQL(後述する定義に合致したリード)を、創出から24時間以内に、CRMシステムを通じて営業部門に供給します」
    • 「MQLの質を担保するため、MQLからSQLへの転換率が△%を下回らないように、リード獲得施策を最適化します」
  • 営業部門からマーケティング部門へのSLA(例):
    • 「マーケティング部門から供給されたMQLに対して、1営業日以内に、最低3回のフォローアップ(電話・メール)を行います」
    • 「全てのMQLに対して、その結果(SQLになったか、ならなかったか、その理由は何か)を、CRMシステムに必ず記録し、マーケティング部門にフィードバックします」

このSLAは、両部門の役割と責任を明確にし、「言った、言わない」といった不毛な対立を防ぎ、互いへの期待値を調整するための、極めて重要なルールブックとなります。

共通の目標という「目的地」を定め、SLAという「航海図」を共有すること。それこそが、Smarketingという船を、成功へと導くための第一歩なのです。

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4. リードの質を定義する(MQL, SQL)

マーケティング部門と営業部門の連携において、最大の障壁となるのが「リードの質」に関する認識のズレです。このズレを解消し、両部門が円滑に連携するための共通言語となるのが、MQL(Marketing Qualified Lead)とSQL(Sales Qualified Lead)という、リードの「質」を段階的に定義する概念です。

このMQLとSQLの定義を、両部門が共同で策定し、合意すること。これこそが、Smarketingを機能させるための、まさに要石(キーストーン)と言えるプロセスです。

リードの質を測る2つの軸

見込み客の「質」や「確度」は、主に以下の2つの軸で評価されます。

  1. 属性 (Profile / Firmographics):
    • その見込み客が、「自社の理想的な顧客像(ペルソナ)に、どれだけ合致しているか」という軸。
    • BtoBの場合、企業属性(業種、企業規模、地域など)や、担当者属性(役職、所属部署など)がこれにあたります。
  2. 行動 (Interest / Engagement):
    • その見込み客が、「自社の製品やサービスに対して、どれだけ高い関心を示しているか」という軸。
    • Webサイト上での行動履歴(料金ページの閲覧、導入事例のダウンロード、セミナーへの参加など)や、メールへの反応(開封、クリック)などがこれにあたります。

この2つの軸を組み合わせて、リードを分類し、それぞれに対して適切なアプローチを定義していきます。

MQL (Marketing Qualified Lead) の定義

MQLとは、「マーケティング活動によって創出されたリードの中から、”属性”と”行動”の両面から、将来的に顧客となる可能性が高いと、マーケティング部門が判断したリード」のことです。これは、マーケティング部門から営業部門へ、「このリードは有望なので、フォローをお願いします」と、自信を持ってパスできる品質基準を定めたものに他なりません。

  • MQLの定義づくりのプロセス:
    1. 過去の優良顧客の分析: まず、過去に受注に至った優良顧客の共通点を、営業部門と共同で分析します。「どのような業種、企業規模の、どの役職の人が多かったか」「受注前に、どのようなコンテンツを見ていたか」などを洗い出します。
    2. 基準の言語化: 分析結果に基づき、「MQLの定義」を具体的な条件として言語化します。
    3. リードスコアリングの導入 (任意・推奨): より精緻なMQLの判定のために、「リードスコアリング」という手法を導入することもあります。これは、リードの属性や行動の一つひとつに点数を付け、合計スコアが一定の基準(例:100点)を超えたリードをMQLと判定する仕組みです。
  • MQLの定義とスコアリングの例:
項目 条件 スコア
属性スコア 業種: 製造業 +20点
従業員数: 100名以上 +20点
役職: 課長以上 +10点
行動スコア 料金ページの閲覧 +15点
導入事例のダウンロード +20点
セミナーへの参加 +30点
問い合わせ +50点
MQL判定基準 合計スコアが50点以上

このMQLの定義は、一度決めたら終わりではありません。営業からのフィードバックに基づき、定期的に見直し、精度を高めていくことが重要です。

SQL (Sales Qualified Lead) の定義

SQLとは、「マーケティング部門から引き渡されたMQLに対して、営業部門(またはインサイドセールス)が実際にアプローチし、具体的なニーズや予算、導入時期などをヒアリングした結果、”商談に進める価値がある”と判断したリード」のことです。

  • SQLの判定プロセス (BANT条件など):
    • 営業担当者は、MQLに対して電話やメールでコンタクトを取り、BANTのようなフレームワークを用いて、商談化の可能性を判断します。
      • B (Budget): 予算は確保されているか?
      • A (Authority): 決裁権はあるか?
      • N (Needs): 具体的なニーズはあるか?
      • T (Timeframe): 導入時期はいつ頃か?
    • これらの条件が一定レベル以上満たされていると判断された場合に、そのリードはSQLとして認定され、本格的な商談フェーズへと移行します。

定義がもたらす連携の円滑化

MQLとSQLという共通の定義を持つことで、マーケティングと営業の連携は劇的にスムーズになります。

  • マーケティング部門: MQLの定義という明確なゴールができることで、リードの「量」だけでなく「質」を追求するようになります。MQLの数を増やすために、より質の高いコンテンツや、ターゲットを絞った広告施策を展開するようになります。
  • 営業部門: MQLの定義に合致したリードだけがパスされてくるため、無駄なフォローコールから解放されます。一つひとつのリードに対して、背景情報(どのような行動を取ってきたか)を理解した上で、質の高いアプローチをすることに集中できます。

この明確な基準と、それに基づく役割分担こそが、「質の低いリードばかり」「フォローしてくれない」といった、両部門の不満を解消し、生産的な協業関係を築くための、最も確実な処方箋なのです。

5. CRM/SFAを活用した情報共有の仕組み

マーケティング部門と営業部門が、共通の目標(KGI/KPI)と、共通の言語(MQL/SQLの定義)を持ったとしても、それを日々の業務の中で円滑に機能させるためには、両部門の活動状況をリアルタイムで共有し、可視化するための「情報基盤」が不可欠です。この情報基盤の役割を担うのが、CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)といった、ITツールです。

これらのツールを導入し、マーケティングと営業のプロセスを一つのプラットフォーム上に統合することで、情報のサイロ化を防ぎ、データに基づいたシームレスな連携を実現することが可能になります。

CRM/SFAがSmarketingの「神経系」となる

CRM/SFAは、顧客に関するあらゆる情報を一元的に蓄積・管理するためのデータベースです。Smarketingの実践において、このツールは、両部門を繋ぐ「神経系」のような役割を果たします。

  • 顧客情報の一元管理:
    • ある見込み客が、「いつ、どの広告経由でサイトを訪れ(マーケ情報)、どのページを閲覧し(マーケ情報)、資料をダウンロードし(マーケ情報)、その後、営業担当者の誰が、いつ接触し(営業情報)、どのような会話をし(営業情報)、現在どのような商談ステータスにあるのか(営業情報)」といった、顧客との初回接点から現在に至るまでの全てのやり取りが、時系列で一つのデータベースに記録されます。
  • マーケティングから営業への情報伝達:
    • この一元化された情報を基に、マーケティング部門は、質の高いリード(MQL)を、そのリードの背景情報(どのような関心を持っているか)と共に、スムーズに営業部門へ引き渡すことができます。
    • 営業担当者は、架電する前にそのリードの行動履歴を確認することで、「〇〇という資料をダウンロードいただいた件ですが…」といった、文脈に沿った、質の高いアプローチが可能になります。
  • 営業からマーケティングへの情報伝達:
    • 営業担当者は、リードへのアプローチ結果(商談化の成否、失注理由、顧客からの具体的な質問や要望など)を、CRM/SFAに記録します。
    • マーケティング部門は、この「現場の生の声」をリアルタイムで把握することができます。これにより、「〇〇というキーワードで獲得したリードは、商談化率が高い」「△△という機能に関する質問が多いから、それに関するコンテンツを強化しよう」といった、データに基づいたマーケティング施策の改善が可能になります。

代表的なツールと、その連携イメージ

市場には様々なCRM/SFAツールが存在しますが、Smarketingを実践する上で代表的なプラットフォームとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • HubSpot:
    • マーケティング、セールス、カスタマーサービスの機能が、最初から一つのプラットフォームに統合されているのが最大の特徴です。MA、SFA、CRMの機能がシームレスに連携しており、Smarketingを始めるためのツールとして非常に人気が高いです。
  • Salesforce & Pardot / Marketing Cloud:
    • SFA/CRMの巨人であるSalesforceと、そのMAツールであるPardotやMarketing Cloudを連携させるモデルです。BtoBを中心に、多くの企業で導入されています。
  • SATORI, Marketo, etc.:
    • 様々なMAツールと、SFA/CRMツールをAPI連携させて、同様の環境を構築することも可能です。

【連携の具体的な流れ】

  1. リード獲得: Webサイトのフォームから問い合わせや資料請求があると、その情報が自動的にMA/CRMに登録されます。
  2. リード育成・スコアリング: MA機能が、そのリードの行動(ページの閲覧、メールの開封など)をトラッキングし、スコアリングを行います。
  3. MQLの自動判定と通知: リードのスコアが、あらかじめ設定したMQLの基準に達すると、システムが自動でMQLと判定し、担当の営業者に「新しいMQLが割り当てられました」と通知を送ります。
  4. 営業活動の記録: 通知を受けた営業担当者は、MQLにアプローチし、その活動履歴(電話、メール、商談内容など)をSFA/CRMに記録します。
  5. フィードバックと分析: マーケティング部門は、その活動履歴をダッシュボードで確認し、どの施策が質の高いMQL創出に繋がったのかを分析します。

ツール導入を成功させるためのポイント

  • 目的の明確化: ツールを導入すること自体が目的化しないように注意が必要です。「ツールを使って、どのような課題を解決したいのか」を、両部門で明確に合意形成することが、導入成功の鍵です。
  • 現場の定着化: ツールは、使われなければただの箱です。特に、多忙な営業担当者が、活動履歴をきちんと入力してくれるように、入力のメリット(入力することで、質の高いリードが供給されるなど)を伝え、運用を定着させるためのルール作りとトレーニングが不可欠です。

CRM/SFAは、単なる営業管理ツールではありません。それは、マーケティングと営業の間に、透明性の高い、データに基づいたコミュニケーションハイウェイを築き、組織全体の生産性を向上させるための、強力な戦略的投資なのです。

※関連記事:Webマーケティング戦略の立て方|成果を最大化する完全ガイド【10ステップで解説】

6. インサイドセールスの役割と重要性

従来の組織では、マーケティング部門が創出したリード(MQL)は、直接、フィールドセールス(外勤営業)の担当者に引き渡されていました。しかし、このモデルには、いくつかの構造的な課題が存在します。

フィールドセールスは、既存顧客のフォローや、大型商談のクロージングといった、より重要度の高い業務に追われ、まだ温度感の低いMQLへの迅速なフォローが後回しになりがちです。また、マーケティング部門とフィールドセールスの間には、思考文化やスキルの違いから、コミュニケーションの断絶が生まれやすいという問題もあります。

このマーケティングとセールスの間に存在する「溝(リフト)」を埋め、両者を滑らかに繋ぐ「架け橋」として、近年、急速にその重要性を増しているのが「インサイドセールス」という専門職です。

インサイドセールスとは何か?

インサイドセールスとは、電話、メール、Web会議システムなどを活用し、社内(インサイド)から、見込み客へのアプローチや、関係構築を行う内勤型の営業手法、またはその担当者を指します。訪問を主体とするフィールドセールスとは対照的な役割を担います。

Smarketingの文脈において、インサイドセールスは、単なる「内勤の営業」ではありません。彼らは、マーケティングとセールス、両方の言語を理解し、両部門の間に立って、リードの価値を最大化するという、極めて戦略的な役割を担います。

インサイドセールスが担う2つの重要な役割

インサイドセールスの具体的な役割は、対象とするリードの性質によって、大きく2つのタイプに分類されます。

  1. SDR (Sales Development Representative):
    • 役割: 反響型のリード(インバウンドリード)への対応を専門とします。
    • 業務の流れ:
      1. マーケティング部門が、Webサイトからの問い合わせや資料ダウンロードなどで獲得したMQLを受け取ります。
      2. SDRは、そのMQLに対して、迅速に(SLAで定められた時間内に)電話やメールでコンタクトを取ります。
      3. 対話を通じて、顧客の課題やニーズ、予算、導入時期(BANT条件など)をヒアリングし、そのリードが本当に商談に進める質の高いリード(SQL)であるかを見極めます(リードクオリフィケーション)。
      4. SQLであると判断した場合、より詳細な提案を行うフィールドセールス担当者へ、アポイントメントを設定し、これまでのヒアリング内容を正確に引き継ぎます。
    • SDRの価値: マーケティングが獲得したリードの取りこぼしを防ぎ、フィールドセールスが質の高い、温まった商談だけに集中できる環境を作り出します。
  2. BDR (Business Development Representative):
    • 役割: 新規開拓型のリード創出(アウトバウンドリード)を専門とします。
    • 業務の流れ:
      1. BDRは、マーケティング部門と連携し、ターゲットとなる企業(特にエンタープライズなどの大企業)のリストを作成します。
      2. そのターゲット企業に対して、電話、メール、SNS(LinkedInなど)を駆使し、能動的にアプローチを行い、課題やニーズを喚起します。
      3. 対話を通じて、商談化の可能性を見出し、フィールドセールスへのアポイントメントを設定します。
    • BDRの価値: 従来の非効率な飛び込み営業やテレアポとは異なり、ターゲットを絞り込み、戦略的なアプローチで、質の高い商談機会を能動的に創出します。

インサイドセールスがSmarketingを加速させる理由

インサイドセールス部門を設置することは、Smarketingの実践において、計り知れないメリットをもたらします。

  • マーケティングとセールスの「翻訳家」:
    • インサイドセールスは、日々、マーケティングが生成したリードに触れ、同時に、セールスが求める商談の質を理解しています。彼らは、両部門の間に立ち、リードの質に関するフィードバックを、具体的な言葉で双方向に翻訳する役割を果たします。「このキャンペーンで獲得したリードは、課題感が浅いケースが多いので、もう少しコンテンツで育成する必要がありそうだ」といった、具体的な改善のヒントをマーケティングに提供できます。
  • リードの価値を最大化する「育成者」:
    • MQLの中には、すぐに商談には進まないものの、中長期的には有望な見込み客も数多く存在します。インサイドセールスは、こうした「今すぐ客」ではないリードに対して、定期的に有益な情報を提供し続けることで、関係を維持・育成し、最適なタイミングで商談へと繋げる(リードナーチャリング)役割も担います。これにより、マーケティングが獲得したリードの価値を、取りこぼすことなく最大化できます。
  • 分業による専門性と生産性の向上:
    • マーケティング(集客)、インサイドセールス(見極め・育成)、フィールドセールス(提案・クロージング)という、明確な分業体制を築くことで、各担当者は自身の専門領域に集中でき、組織全体の生産性が飛躍的に向上します。

インサイドセールスは、マーケティングとセールスという、これまで断絶しがちだった二つの大陸を繋ぐ、強固で、しなやかな「橋」です。この橋を架けることが、Smarketingを成功に導くための、最も効果的な組織設計の一つと言えるでしょう。

※関連記事:Webマーケティングで売上アップ!重要な施策まとめ

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7. 顧客の声をフィードバックするループを作る

Smarketingの目的は、単にマーケティングと営業の業務プロセスを繋ぐだけではありません。その真の価値は、顧客との最前線に立つ営業部門が、日々顧客との対話の中で得ている「生の声」を、マーケティング部門の戦略や施策に、継続的にフィードバックする「学習する組織」の仕組みを構築することにあります。

顧客がなぜ競合ではなく自社を選んでくれたのか(受注理由)、あるいは、なぜ最終的に契約に至らなかったのか(失注理由)。この成功と失敗の要因を、データとして蓄積・分析し、マーケティング活動に活かすループを作ること。これこそが、企業全体のマーケティング能力を飛躍的に高め、持続的な成長を実現するための鍵となります。

なぜ営業からのフィードバックが不可欠なのか

マーケティング部門は、Webサイトのアクセスデータや、広告のクリックデータといった、定量的なデータから顧客の行動を推測することは得意です。しかし、そのデータの裏側にある、顧客の「感情」や「文脈」までは、なかなか知ることができません。

  • 営業担当者だけが知っていること:
    • 失注の本当の理由: 「価格が合わなかった」という表面的な理由の裏に、「実は、競合の〇〇という機能が、担当者の個人的な業務課題に刺さっていた」といった、アンケートでは決して得られない、定性的な情報
    • 顧客が頻繁に口にする質問や懸念: 「この機能について、もう少し詳しい資料はないの?」「導入後のサポート体制が少し不安で…」といった、Webサイト上では解消しきれていない、潜在的な不安
    • 競合の最新動向: 顧客との会話の中で出てくる、競合他社の新しい提案内容や、価格情報
    • 顧客が使う「生きた言葉」: 業界特有の言い回しや、顧客が自身の課題を表現する際に使う、リアルな言葉遣い

これらの情報は、次なるマーケティング施策を企画する上で、金脈とも言える、極めて価値の高いインプットです。このフィードバックループがなければ、マーケティング部門は、いつまでも現実から乖離した、独りよがりな施策を打ち続けることになってしまいます。

フィードバックループを構築するための具体的な仕組み

この重要なフィードバックを、個人の頑張りや、非公式な「立ち話」に頼っていては、組織的な仕組みとして定着しません。明確な「ルール」「場」、そして「ツール」を設計することが不可欠です。

  1. ツールの活用 (CRM/SFA)
  • フィードバックループの土台となるのが、前述のCRM/SFAです。
  • 「失注理由」の入力項目を必須化: 営業担当者が商談をクローズする際に、選択式(例:「価格」「機能」「導入時期」など)と、自由記述式の両方で、失注理由を必ず入力するという運用ルールを徹底します。
  • 活動履歴の具体的な記録: 顧客との電話や商談の内容を、できるだけ具体的に、顧客が発した言葉をそのまま記録することを推奨します。
  1. 定例会議の設置
  • ツール上のデータだけでは伝わらない、微妙なニュアンスや背景を共有するために、マーケティング部門と営業部門(インサイドセールスも含む)が顔を合わせる定例会議を、最低でも月に一度は開催します。
  • アジェンダの例:
    • KPIの進捗確認: 共通の収益ファネルの数値を確認し、ボトルネックを議論する。
    • 当月の主要な「失注案件」のレビュー: 営業担当者が、特に象徴的な失注案件について、その経緯と理由を具体的に共有し、マーケティング側から「その顧客は、どのようなWebコンテンツを見ていましたか?」といった質問を投げかけ、深掘りする。
    • 「顧客からの声」の共有: 営業担当者が、顧客から直接聞いた褒め言葉、クレーム、要望などを共有する。
    • マーケティング施策へのフィードバック: 上記の共有内容を踏まえ、「次のブログ記事では、〇〇という機能の、もっと具体的な活用事例を紹介してほしい」「競合の△△に対抗できるような、比較資料が必要だ」といった、具体的なアクションプランに繋げる。
  1. フィードバックを施策に反映させるプロセス
  • 収集されたフィードバックは、必ず次のマーケティング施策に反映させます。
  • コンテンツ改善: 顧客からの質問が多かった項目について、FAQページを拡充したり、より詳細な解説ブログ記事を作成したりする。
  • Webサイト改善: 失注理由が「価格が分かりにくい」ということであれば、料金ページのデザインや説明を改善する。
  • 広告メッセージの改善: 顧客が使っていた「生きた言葉」を、広告のキャッチコピーに取り入れる。

そして最も重要なのは、施策に反映したことを、営業部門にきちんと伝えることです。「先日の会議でいただいたご意見を基に、〇〇というコンテンツを作成しました。ぜひ、今後の商談でご活用ください」と伝えることで、営業担当者は「自分のフィードバックが、ちゃんと役に立っている」と実感し、より積極的に情報共有してくれるようになります。

このフィードバックループは、一度回り始めると、組織全体の「顧客解像度」を飛躍的に高め、自己学習し、進化し続ける、強力なマーケティングエンジンとなるのです。

※関連記事:Webマーケティング戦略の立て方|成果を最大化する完全ガイド【10ステップで解説】

8. Webマーケティングが営業を効率化する

Smarketing(スマーケティング)の実践は、マーケティング部門の成果を高めるだけでなく、営業部門の活動を、より効率的で、より生産性の高いものへと劇的に変革する、強力なドライバーとなります。

Webマーケティング、特にインバウンドマーケティング(顧客にとって価値のあるコンテンツを発信し、見つけてもらうのを待つ手法)と連携した営業スタイルは、これとは全く異なります。それは、まず自社の畑(Webサイト)を丁寧に耕し、栄養豊富な作物(有益なコンテンツ)を育て、その作物の匂いに惹かれて自ら集まってきた、質の高い見込み客だけを収穫する「農耕型」のスタイルです。

  • 営業担当者がアプローチする相手の変化:
    • Before: 会社四季報のリストの上から順に電話をかける。相手は自社のことを全く知らず、話を聞いてもらえることすら稀。
    • After: 自社のWebサイトで特定の課題に関する記事を読み込み、資料までダウンロードしてくれた、既に自社のソリューションに関心を持っている見込み客(MQL)にのみ、アプローチする。

このアプローチ対象の変化が、営業活動のあらゆる側面を効率化します。

営業プロセスの各段階における効率化

  1. ターゲティング・アプローチ段階
  • 無駄なアプローチの削減:
    • マーケティング部門とインサイドセールスによって、確度が低いリードは事前にスクリーニングされています。これにより、営業担当者は、成約の可能性がほとんどない相手に、貴重な時間を費やす必要がなくなります
  • 質の高い初回接触(ファーストコンタクト):
    • 営業担当者は、アプローチする前にCRM/SFAで、その見込み客が「どのような課題に関心を持ち、どのページを閲覧していたか」を把握しています。
    • これにより、「はじめまして、〇〇社の△△と申します」という画一的な挨拶ではなく、「先日ダウンロードいただいた、”□□のコスト削減事例”の件ですが、貴社でも同様の課題をお持ちでしょうか?」といった、相手の文脈に寄り添った、質の高い会話からスタートできます。これにより、顧客との信頼関係(ラポール)の構築が、圧倒的にスムーズになります。
  1. ヒアリング・提案段階
  • ヒアリングの深化:
    • すでに見込み客の基本的な関心事は把握できているため、より深いレベルでの課題のヒアリング(「なぜ、その課題が発生しているのか」「解決することで、どのような状態を目指したいのか」)に、多くの時間を割くことができます。
  • パーソナライズされた提案:
    • マーケティング部門が用意した、豊富なコンテンツ(導入事例、技術解説ブログ、比較資料など)を、「営業ツール」として活用できます。顧客の特定の課題に合わせて、「その点については、こちらの導入事例が参考になるかと存じます」と、適切なコンテンツを提示することで、提案の説得力を高めることができます。
  1. クロージング段階
  • 商談期間の短縮:
    • 購買プロセスの初期段階を、マーケティング部門がオンラインコンテンツで担ってくれているため、営業が関与する時点では、顧客の検討は既にある程度進んでいます。これにより、商談が始まってから、受注に至るまでの期間(リードタイム)が、従来よりも短縮される傾向にあります。
  • 受注率の向上:
    • 自社のことを深く理解し、信頼してくれている、質の高い見込み客との商談が中心となるため、当然ながら受注率も向上します。

営業担当者の役割の変化とモチベーション向上

Smarketingが浸透した組織において、営業担当者は、単なる「売り子」ではありません。彼らは、マーケティングによって集められた質の高いリードに対して、専門家としての深い知見を提供し、顧客のビジネス課題を解決に導く「コンサルタント」であり、「信頼されるアドバイザー」としての役割を担います。

この役割の変化は、営業担当者の仕事のやりがいや、モチベーションを大きく向上させます。非効率な新規開拓から解放され、より知的で、創造的な業務に集中できる環境は、優秀な営業人材の定着にも繋がります。

Webマーケティングは、営業の仕事を奪うものでは決してありません。むしろ、営業担当者を、彼らが最も価値を発揮できる、人間的なコミュニケーションや、高度な課題解決といった領域へと解放し、その生産性を最大化するための、最も強力なパートナーなのです。

9. 売上向上に直結するWebマーケティング

Webマーケティングの各施策(SEO、広告、SNSなど)は、それ自体が目的ではありません。PV数や「いいね」の数を増やすことは、あくまで中間目標(KPI)であり、その最終的なゴールは、ビジネスの根幹である「売上」に、いかにして貢献するかという一点に尽きます。

Smarketing(スマーケティング)のフレームワークは、このマーケティング活動と、最終的な売上との間の「ブラックボックス」を解消し、両者をダイレクトに結びつけるための、強力な羅針盤となります。ここでは、売上向上というKGI(重要目標達成指標)から逆算して、どのようなWebマーケティング施策を構築すべきか、その考え方を解説します。

収益ファネル全体で機会損失をなくす

売上は、「商談数 × 受注率 × 顧客単価」という式で成り立っています。そして、その手前の商談数を創出するのが、Webマーケティングの役割です。Smarketingでは、見込み客の創出から受注までのプロセスを、一つの「収益ファネル」として捉え、各段階での機会損失(取りこぼし)を、マーケティングと営業が連携して、徹底的になくしていくことを目指します。

  • ファネル上層(認知・興味)でのWebマーケティング:
    • 役割: より多くの、そしてより質の高い潜在顧客を、ファネルの入り口に呼び込む。
    • 売上に直結する施策:
      • 課題解決型コンテンツ (SEO): 顧客が抱えるであろう「課題」や「悩み」を起点としたキーワードで検索上位を独占し、自社のソリューションに気づいていない潜在層にリーチする。
      • ターゲティング広告: 自社の優良顧客と類似した属性を持つ層に、SNS広告やディスプレイ広告でアプローチする。
  • ファネル中層(比較・検討)でのWebマーケティング:
    • 役割: ファネルに入ってきた見込み客を、有益な情報を提供し続けることで育成し、営業がアプローチすべき有望なリード(MQL)へと転換させる。
    • 売上に直結する施策:
      • 比較検討コンテンツ: 競合他社との比較記事や、第三者機関による評価などを提示し、自社の優位性を客観的に示す。
      • 導入事例・お客様の声: 「自分と同じような課題を抱えていた企業が、このように成功した」というストーリーは、検討段階の顧客の背中を押す、最も強力なコンテンツです。
      • リターゲティング広告: 一度サイトを訪れたが離脱してしまったユーザーを追いかけ、導入事例などのコンテンツを提示し、再検討を促す。
  • ファネル下層(購買・決定)でのWebマーケティング:
    • 役割: 購買意欲が最高潮に達した見込み客を、スムーズに商談、そして受注へと繋げる。
    • 売上に直結する施策:
      • 営業部門との連携コンテンツ: 営業担当者が商談でよく使う資料(提案書テンプレート、料金シミュレーターなど)をWebサイト上で提供し、インサイドセールスがフォローする。
      • LPO/EFO: 広告や検索からの受け皿となるランディングページ(LPO)や、問い合わせフォーム(EFO)を最適化し、コンバージョンへの最後の障壁を取り除く。

マーケティングROIの可視化と最適化

Smarketingを実践し、CRM/SFAでマーケティングと営業のデータが統合されると、どのマーケティング施策が、最終的にいくらの売上を生み出したのかという、マーケティングの投資対効果(ROI)を、極めて正確に可視化できるようになります。

  • アトリビューション分析:
    • 顧客が受注に至るまでには、広告、SEO、SNS、セミナーなど、複数のマーケティングチャネル(タッチポイント)が関与しています。アトリビューション分析とは、最終的な売上という成果を、これら複数のタッチポイントに、貢献度に応じて適切に配分する考え方です。
    • これにより、「初回接点はSNS広告だったが、最終的なコンバージョンの決め手となったのは、営業担当者が送った導入事例のブログ記事だった」といった、より現実に即した貢献度の評価が可能になります。
  • データに基づいた予算配分:
    • このROIの可視化により、「SEO経由のリードは、広告経由のリードに比べて、受注率は2倍高いが、顧客単価は低い」といった、チャネルごとの特性が明らかになります。
    • このデータに基づき、「来期は、単価の高い顧客を獲得するために、〇〇というテーマのコンテンツSEOと、△△業界向けのセミナーに、予算を重点的に配分しよう」といった、極めて戦略的で、説明責任の果たせる予算配分が可能になります。

アップセル・クロスセルへの貢献

Webマーケティングの役割は、新規顧客の獲得だけではありません。既存顧客に対して、有益な情報(新機能の活用法、上位プランへの移行メリットなど)を提供し続けることで、顧客単価の向上(アップセル)や、関連商品の購入促進(クロスセル)にも貢献できます。

営業部門からの「既存顧客から、〇〇に関する質問が多い」といったフィードバックを基に、マーケティング部門がコンテンツを作成し、顧客との継続的な関係を維持します。

売上向上に直結するWebマーケティングとは、一つひとつの施策が、収益ファネルのどの段階に、どのように貢献するのかを明確に意識し、データに基づいて、その貢献度を常に計測・改善し続ける、科学的なプロセスのことなのです。

※関連記事:Webマーケティングの費用対効果(ROI)|測定方法と改善のポイント

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10. 組織全体で取り組む重要性

Smarketing(スマーケティング)は、マーケティング部門と営業部門の一部の担当者だけが実践すればよい、という限定的な施策ではありません。その効果を最大化し、企業文化として定着させるためには、経営層から現場の各担当者に至るまで、組織全体がその重要性を理解し、顧客中心という共通の価値観の下で、主体的に関与していくという、全社的な取り組みが不可欠です。

部門間の壁を越えた連携は、時に痛みを伴う組織変革です。しかし、この壁を乗り越えた先にこそ、持続的な成長を実現する、真に強い組織への道が拓かれています。

経営層のリーダーシップがすべての鍵を握る

Smarketingの導入と推進において、最も重要な役割を担うのは、間違いなく経営層(社長、役員)です。なぜなら、部門間の対立の根源にある、評価制度や組織構造といった問題にメスを入れることができるのは、経営層だけだからです。

  • 明確なビジョンと目的の提示:
    • なぜ、今、マーケティングと営業の連携が必要なのか。それによって、会社はどのような未来を目指すのか。この「Smarketingの目的」と「会社全体のビジョン」を、経営者自身の言葉で、繰り返し、そして情熱を持って、全社員に語りかける必要があります。
  • 共通目標(売上)へのコミットメント:
    • マーケティング部門の評価を、リード獲得数だけでなく、最終的な売上への貢献度で評価するように、評価制度(KPI)を見直す。営業部門にも、マーケティングへのフィードバックを評価項目に加える。このように、両部門が、売上という共通の目標に対して、連帯責任を負う仕組みを、トップダウンで構築することが、Smarketingを形骸化させないための最も強力な推進力となります。
  • 必要な投資への意思決定:
    • CRM/SFA/MAといった、連携の基盤となるITツールへの投資や、インサイドセールス部門の立ち上げといった、組織的な変更に対する、迅速な意思決定と予算の確保も、経営層にしかできない重要な役割です。

部門を超えた「One Team」の文化醸成

Smarketingは、ツールや制度だけで成り立つものではありません。その根底には、顧客に対する価値提供を最大化するという共通の目的の下、互いの専門性をリスペクトし、協力し合う「One Team」としての組織文化が必要です。

  • 物理的な・心理的な壁を取り払う:
    • 可能であれば、マーケティング部門と営業部門の座席を近くに配置するだけでも、日常的なコミュニケーションは活性化します。
    • 前述の定例会議を、単なる数字の報告会ではなく、成功事例を称え合い、失敗から共に学ぶ、建設的なディスカッションの場として機能させることが重要です。
    • 営業の商談にマーケティング担当者が同行したり、マーケティングの施策会議に営業担当者が参加したりといった、部門を越えた人材交流(ジョブローテーション)も、相互理解を深める上で非常に効果的です。

顧客サポート部門も巻き込んだ、全社的なフィードバックループ

真の顧客中心の組織を目指すのであれば、Smarketingの連携の輪は、マーケティングと営業だけに留まりません。製品・サービスの導入後に、顧客と最も長く、深く関わるカスタマーサポート(またはカスタマーサクセス)部門も、このループに加えるべきです。

  • カスタマーサポートが持つ宝の山:
    • 日々寄せられる、顧客からの「よくある質問」「クレーム」「機能改善の要望」。これらは、未来の製品開発のヒントであり、マーケティングコンテンツの最高のネタの宝庫です。
  • 全社的なフィードバックループ:
    • 営業 → マーケティング: 失注理由や顧客の生の声
    • カスタマーサポート → マーケティング: 顧客からの要望や質問
    • カスタマーサポート → 営業: アップセル・クロスセルの機会
    • これらの情報が、CRM/SFAをハブとして、全社で共有され、それぞれの部門のアクションに繋がる仕組みを構築することで、企業は、顧客の声を起点として、常に自己変革し続ける「学習する組織」へと進化できます。

Smarketingの本質とは、部門の壁という、企業内部の都合を取り払い、顧客から見れば一つであるはずの「会社」として、一貫性のある、最高の体験を提供し続けること。この顧客中心の思想を、組織のDNAとして根付かせることができた時、あなたの会社は、競合が容易には模倣できない、持続的な競争優位性を手に入れることができるでしょう。

まとめ

本稿では、Webマーケティング部門とセールス部門という、企業の収益エンジンを担う二つの部門が、いかにして連携し、売上を最大化していくか、そのための先進的なアプローチである「Smarketing(スマーケティング)」について、その概念から具体的な実践方法までを、10のステップで網羅的に解説してきました。

その道のりは、まず、両部門の間に存在する根深い対立の原因を正しく理解し、売上という共通の目標(KGI/KPI)を掲げることから始まります。そして、MQL/SQLという共通の言語でリードの質を定義し、CRM/SFAという共通の情報基盤の上で、日々の活動を共有する。インサイドセールスという強力な架け橋が、両部門を滑らかに繋ぎ、営業の現場で得られた顧客の生の声が、マーケティング戦略を磨き上げるための、絶え間ないフィードバックループを創り出します。

この一連の仕組みは、Webマーケティングを、単なるリード獲得活動から、営業活動を効率化し、売上に直結する科学的なプロセスへと昇華させます。

しかし、最も重要なのは、Smarketingが単なるツールや制度の導入に留まらない、組織文化そのものの変革であるということです。経営層の強いリーダーシップの下、部門の壁を越えて、全社員が「顧客への価値提供」という一点に向かって協力し合う。この「One Team」としての姿勢こそが、Smarketingを成功に導き、あなたのビジネスを、顧客から選ばれ続ける、真に強い組織へと進化させるのです。

 

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株式会社TROBZ 代表取締役

愛知県岡崎市出身。大学卒業後、タイ・バンコクに渡り日本人学校で3年間従事。帰国後はデジタルマーケティングのベンチャー企業に参画し、新規部署の立ち上げや事業開発に携わる。2024年に株式会社TROBZを創業しLocina MEOやフォーカスSEOをリリース。SEO検定1級保有

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